きっかけはインターネットを支える仕組みへの興味
いまの道に進むきっかけは、高校時代にあります。当時インターネットの黎明期で、新しい世界の扉が開き始めた感がありました。興味の赴くままに友人たちとWebサイトの立ち上げをするうちに、インターネットがつながる仕組みに興味をもつようになっていきます。友人たちがコンテンツやソフトウェアづくりに傾倒していた一方、私はそれらを支えるインフラのことを深く知りたくなりました。ここが分岐点になったのでしょう。私は通信を支えるインフラの仕事、友人たちはソフトウェア開発の仕事に就いています。
とはいえ、すんなりこの世界に飛び込めたわけではありません。就職氷河期の真っ只中で、希望通りの仕事を探すのが困難な時代でした。自動車メーカーのエンジニアだった父のつてもあり、関連企業に入社することができ、射出成型機の生産管理業務を担当します。もともと購入したガジェットなどについても、仕組みが気になり取扱説明書やマニュアルは隅々まで読み込む性分でしたので、工場にある機械や設備も、きっちり仕組みを理解して業務に取り組むのが楽しかったです。しかし、その一方で通信インフラに関わる仕事がしたいという思いが消えることはありませんでした。
数年ほど勤めた後に、転職を決意し、求職活動を開始します。転職先の最終候補に残ったのが、国内企業のデータセンターと国際海底ケーブルを引き込み陸上の通信網に接続する志摩ランディングステーション(LS)でした。実際にLSの現場を見学した際は、「データセンターのようなもの」という当初のイメージが一転。国際海底ケーブル内の光ファイバーを通じてデータの送受信を行う光伝送装置や、ケーブル監視のための設備、ケーブルに電力を供給する設備など、見たことのない装置であふれていたのです。当然、仕組みを知りたい性分に火が付きました(笑)。希望していた通信インフラであり、なかなか経験できない業務内容だったこともあり、LSで働く決断をしました。
地球規模のネットワークを支えているやりがい
入社当初は、見るもの、触れるもの、初めてのものばかりで戸惑いました。OSI参照モデルのTCP/IPなどレイヤ3の理解はある程度あったのですが、通信インフラの根幹を支えるレイヤ0(設備層)、レイヤ1(物理層)の領域は未知だったのです。幸いLSの上司や先輩がとても親切だったため、丁寧な指導を経て、徐々に仕事に慣れていきました。
ちなみに、LS内には国際海底ケーブルの運用保守に関する膨大なドキュメントが存在します。装置や設備ごとに仕様や作業手順などが細かく記載された分厚いファイルが、3つの書棚を埋め尽くしているのです。業務の傍ら少しずつ読み解いていき、1年ほどかけて読破しました。仕組みをしっかり理解したい性分なので、まったく苦にはならず、機器設備の理解が深まる楽しさやわくわく感の方が大きかったです。
海を隔てる国や地域をつなぐ国際海底ケーブルは、地球規模のネットワークを支える重要なインフラです。安定したケーブルの運用保守があってこそ、世界中の人々の生活や経済が維持されます。その一端に関われることに、大きなやりがいを感じています。私が志摩のLSで最初に関わった国際海底ケーブルは「AJC(Australia-Japan Cable)」でした。これは太平洋を縦断する全長約1万2,000キロのケーブルで、日本~オーストラリア間をグアムで中継して結んでいます。その後、いろいろなケーブルに関わりますが、やはりいちばん思い入れがあります。
AJCのシステム増設プロジェクトに関わったときのことです。LSに新たな伝送装置を増設するには、接続先のオーストラリアやグアムのNOC、LSとも緊密に連携する必要があります。増設にあたっては、各拠点が電話会議に参加し作業を進めていきました。最終的な試験を終え、無事に作業が完遂した際、電話回線越しに海の向こうから大きな拍手と歓声が聞こえました。国や地域をまたぐプロジェクトメンバー同士で健闘をたたえ合ったことは、今でも心に残る思い出です。
志摩のLSで10年ほど働いた後、千葉の新丸山にあるLSへの異動が決まりました。NTTコムエンジニアリング(以下、コムエンジ)が志摩を含む4つのLS、NOCの保守を統括することになったため、異動と同時にコムエンジの社員として働くことになりました。
視点を変え、初心を積み上げる“海底ケーブルビジネスを支える通信基盤設備のスペシャリスト”
新丸山のLSで働き始めて3年が経過したころ、転機が訪れます。国際海底ケーブルシステムのビジネスは、運用保守を担うコムエンジのLS、NOCや、企画や建設・構築を担うNTTリミテッド・ジャパン(以下、NTT LJ)、ケーブルの敷設や修理を担当する船会社など、さまざまなグループ企業の連携によって成り立っています。13年にわたりLSで培ってきたキャリアを生かし、運用保守とは違った視点から国際海底ケーブルシステムのビジネスに広く関わっていきたいと考えていた矢先のことです。総合的な視点を持つ人材育成を目的として、各組織間で人材を派遣しあう話が持ち上がり、NTT LJの建設・構築チームに派遣されることになります。
建設・構築チームで働くようになってから、3年になります。現在は日本と東南アジアの国々を接続する国際海底ケーブル「ASE(Asia Submarine-cable Express)」の構築作業部会の議長役として、共同投資会社やベンダーとの増設工事プロジェクトを取りまとめるファシリテーターを務めています。こちらの現場で新たな視点に立って学んだのは、自社グループの利益だけを追わないことです。共同投資会社、ベンダーも納得できる提案をする、いわば近江商人の「三方よし」が、国際海底ケーブルを広く普及させるためには重要だと学ばせていただきました。
ASEの業務と並行して、新規ケーブルシステム構築の技術部会メンバーとしても活動しています。さらに各業務で発生する支払請求の会計処理も担当しており、多忙ながら充実した日々です。もともと国際海底ケーブルシステムに広く関わりたいと思っていたので、いろいろなタスクに関わりながら新たな知識、スキルが増えていく喜びがあります。加えてファシリテーターとして共同投資会社が納得する話をまとめたときや、さまざまなトラブルを乗り越えて増設計画を納期通り完了させたときなどには、大きな達成感を感じています。
私の夢は広い視点を持ち、国際海底ケーブルシステムをフルスクラッチで立ち上げられる人材になることです。そのためには、まだまだ経験が足りません。今後はNOCや船会社、企画・販売チームでも経験を積み、10年後には実現したいと思っています。
座右の銘は、世阿弥の「是非初心不可忘。時々初心不可忘。老後初心不可忘。」。これはキャリアをスタートした未熟なころの“初心”、日々の仕事で得られる“初心”、そして将来、夢を実現して感じるであろう“初心”を胸に刻み、忘れないことです。多様な業務に関わることで新たな視点や“初心”が生まれ、忘れずに積み重ねていくことを目指しています。
OFF TIME
休日はボルダリングを楽しんでリフレッシュしているのですが、最近は忙しくてごぶさたしています。ここにきて学び直しの重要性を痛感し、社会人大学生として2018年に理工学部に入学しました。多忙で休学中でしたが、今年度から復学したためキャリアアップに必要な知識を身に付けたいと思っています。
PROFILE
岩崎 光将
岩崎 光将(いわさき みつのぶ)/海底ケーブルビジネスを支える通信基盤設備のスペシャリスト
2015年、NTTコムエンジニアリングに入社。志摩、新丸山のLSで長年培った運用保守のキャリアを生かし、現在は国際海底ケーブル建設構築チームの一員として多忙な日々を送る。ケーブルシステムをフルスクラッチで立ち上げる夢に向かい、日々新たな視点からの“初心”を積み上げている。