ITと英語のスキルを身に付け欧米でカーナビの試験を担当
出身は福島県で小中高、大学はすべて地元です。これからは情報通信の時代になり、IT業界が盛り上がりそうな時流だったため、大学は理工学部電子情報学科に進みました。ITと英語を身に付ければ、将来の選択肢が広がるのではという思いがあり、駅前留学の英会話教室にも通い始めました。
大学卒業後は、それまでずっと地元暮らしでしたので、海外を見てみたいという思いもあり、ワーキングホリデーで1年間ほどニュージーランドに滞在しました。語学学校に通いながら、レストランの皿洗いで滞在費を稼ぎ、現地の名所を巡りました。さまざまな国の留学生と出会い、多様な文化や価値観に触れたことは、世界に触れる貴重な体験だったと感じています。
帰国後は、欧米向けに輸出するカーナビの設計・開発を手掛ける地元の会社に就職しました。カーナビの現地試験を行う担当となり、アメリカ、ドイツ、フランスなどで、現地のエンジニアと一緒にクルマを走行させて、試験を行いました。カーナビの作動状況などをチェックして、日本の開発チームにフィードバックするという仕事でした。いろいろな国や地域を訪問できて、ITと英語のスキルを生かせる希望通りの環境でした。しかし4年半ほど働いたところで、家庭の事情により海外出張で家を開けるのが困難な状況になり、退職して次の就職先を探すことになります。
新たなスキルを習得したいと考え、職業訓練施設でプログラミング関連の講座を受けながら求職活動を続けました。そんな折、ハローワークで気になる求人を見つけたのです。「北茨城にある通信基地局の運用保守業務」とだけあり、詳細は不明ですが、募集条件に「TOEIC何点以上」とあったので、海外に関わる仕事と思い興味を持ちました。そうして訪ねたのが、北茨城ランディングステーション(LS)でした。国際海底ケーブルの存在も知らなかったので、こんな施設があるのかと驚いた記憶があります。自宅から通えて、スキルを生かせそうな仕事でしたので、応募し採用に至って働くことになりました。
経験ゼロから異例のスピードでLSの局長に
多少覚えのあった英語はともかく、LSの技術的な知識を習得する過程ではとても苦労しました。現場では聞いたことのない言葉が飛び交い、英語でのやりとりも専門用語が多くて理解できないのです。当時、この道数十年のベテラン上司に教わったのですが、とにかく最初からトレーニングのレベルが高く、付いていくのに必死でした。言葉も意味もわからずメモを取り続け、空いた時間にWebで検索する毎日でした。しかし専門的な領域なので、検索結果も難解で、ひたすら知識を詰め込んでいき、何とか理解できたのが1年後くらいでしょうか。そこから、徐々に仕事を回せるようになっていきました。
LSでは、日常的に国際海底ケーブルがつながる先の国にあるNOC(統制部門)とメールや電話で連絡を取り合います。私はアメリカにつながるケーブル担当でしたので、アメリカのNOCのメンバーとやり取りすることが多いのですが、お互いに面識がないため事務的な業務連絡にとどまり、ときには話の食い違いから嫌味を言われることもありました。ところが、この状況を一転させる出来事が起こります。
新しくアメリカ製装置の導入が決まり、メーカーのトレーニングを受けるために渡米することになりました。すると、会場で普段連絡を取っていたNOCのメンバーとばったり顔を合わせることに。「いつもやり取りしているのはお前だったのか」と意気投合し、トレーニング後に一緒にお酒を酌み交わしてすっかり打ち解けました。その後、帰国してからはメールや電話のレスポンスが驚くほど早くなったのです(笑)。嫌味を言われることもなくなり、現場でしか知りえない貴重な情報を教えてもらうようになりました。当時、仲良くなったメンバーとはいまでもたまに近況報告を行っています。
2015年、NTTコムエンジニアリング(以下、コムエンジ)が北茨城をはじめ4つのLSの運用保守を統括することになったタイミングで、コムエンジに入社しました。以前所属していた会社のメンバーは1年ほどの引き継ぎ期間を経てLSから離れたのですが、その後、経験5年にも満たない私がLSの責任者である局長に抜擢されます。10年、20年勤めてから就任するのが一般的なので、戸惑いましたが、親身になって相談に乗ってくれるスタッフに助けられ、何とか務められるようになっていきました。
現場を知り尽くす“国際海底ケーブルのスペシャリスト”
北茨城LSを局長として管理するようになって3年、さらなるスキルアップを求めて異動を志願し、千葉の新丸山LSの局長に就任しました。その後新丸山LSに加えて、新たに開局した南房総LSの2局を管理することになったタイミングで、新たな局長を迎えることになります。現在、私は2局の副局長として勤務し、スタッフへの業務指示や構築工事の対応、対外交渉など、現場のことを取り仕切っています。
私の持ち味は、国際海底ケーブルを利用する各種装置の仕様や故障対応のプロセスなどを広く熟知しているところにあります。たとえば装置の故障時にメーカーに問い合わせると「○○を試してください」という指示はもらえるのですが、広い知識がないと指示の妥当性が判断できないのです。メーカーの指示がすべて正しければいいのですが、まれに勘違いなのか、すべての回線が落ちるような指示が来ることもあります。そういったミスを未然に防ぐような知識は持っていると思います。
もうひとつ、最近は人材育成にも注力しています。ポイントは、スタッフがギリギリできるかできないかのレベルの仕事を依頼することです。失敗しても大丈夫なように、フォローしますが、多少緊張するような仕事を託すことでスキルは飛躍的に上達します。いま振り返れば駆け出しのころ、上司に受けた高レベルのトレーニングにも、そんな意図があったのかもしれません。グローバル志向があるなら、ぜひLSでの勤務をお勧めします。私のように、経験ゼロでも大丈夫です(笑)。
将来的には、ケーブル構築などの現場で経験を積んで、NTTブランドを世界に発信できるエンジニアを目指しています。座右の銘は、米国の思想家、エマーソンの「恐怖は常に無知から生じる」。新しいことに挑戦するときには恐れを感じるものですが、やってみれば意外とできるもので、知ることで恐怖は無くなります。これからも後進の育成を行いつつ、現場に関わるプレーイングマネージャーとして、新しい海底ケーブルの構築にも挑戦していきたいと思います。そして10年、20年後に「あのケーブルは俺がつくったんだ」と胸を張って宣言できるエンジニアになりたいですね。
OFF TIME
小学2年生の長男が少々引っ込み思案で、もっと自信をつけてもらおうと思い、キックボクシングのジムと柔術の道場に通わせています。休日は親子でサンドバック叩き、ミット打ちなどで汗を流しています。もともと、格闘技を見るのは好きでしたが、実際にやると想像以上に大変ですね(笑)。
PROFILE
喜多村 薫
喜多村 薫(きたむら かおる)/国際海底ケーブルのスペシャリスト
2015年、NTTコムエンジニアリングに入社。北茨城LSの局長、新丸山LSの局長を経て、現在は新丸山LSと南房総LSの副局長として現場の業務を取り仕切る。後進の育成に携わりつつ、持ち前の英語力を生かしてグローバルを舞台に活躍するエンジニアを目指している。