不動産業界でITの面白さとやりがいに気づく
生まれは横浜市北部の港北エリアです。いまでこそ港北ニュータウンのある立派な街でが、私の子ども時代は町内に信号が1つもない田舎でした。いわば港北ニュータウンの開発が進む中、地価の上昇や相続税の高騰などで困っている地元農家の方々を目の当たりにしてきた世代です。そういう人たちを救いたいという思いで、将来は不動産の仕事に就きたいと考えるようになりました。
大学は建築学科に進み、卒業後は2年ほど税務会計事務所で働きながら、不動産業に必要なスキルである税金の知識を習得しました。座学より現場で学んだほうが早いと判断したからです。満を持して、念願の不動産会社へ入社したのですが、営業職として働くうちに、目指していた理想と現実のギャップに気づかされます。たとえば、ある土地を巡って、複数の不動産会社が価格競争による争奪戦を繰り広げることが多々あります。ビジネスとしては当たり前の現実なのですが、不動産で困っている人を助けたり、誰かに頼りにされたり、感謝される仕事に就きたいという理想にはほど遠かったのです。
そんな葛藤を抱えながら仕事を続けていたのですが、1995年に「Windows95」が発売され一大ブームとなったことが転機になりました。会社でIT化を推進する流れになり、もともと機械いじりが好きだった自分に白羽の矢が立ったのです。当時はいまほど教則本も無かったため、独学でトライアンドエラーを重ねて導入を進めました。この実績が評価され、本来の業務と兼務して社内SEとして働くようになり、いまでいう“ひとり情シス”として複数の不動産会社を渡り歩きます。これが大変な仕事でして、社員500人分のPCを1人でアップデートするために何日も家に帰れないこともありましたね(笑)。
ひとり情シスの仕事は苦労がある反面、会社や人に感謝されることも少なくありません。たとえば、当時の不動産屋では沿線別・駅別に分類してファイリングした紙の物件情報をお客さまに提示するのが一般的で、常々業務効率が悪いと感じていました。そこで物件情報を複合機でスキャンし、ファイルサーバーに蓄積するシステムをベンダーの手を借りずに1人で構築します。その結果、PCの画面上で物件を絞り込み、お客さまが検討したい物件だけを紙で出力できるようになり、物件を探す効率が大幅に向上し、ペーパーレス化も進みました。この成功体験がIT業界を目指した一因かもしれません。
新天地に飛び込むチャレンジが生んだビジネスモデル
不動産からITの世界への転身を決めたものの、30代半ばの業界未経験者を正社員として雇ってくれる会社はなかなかありません。そこで派遣社員としてNTT コミュニケーションズ(以下、NTT Com)に勤務し、ITのスキルを磨くことにしました。既婚者としては思い切った決断だったと思います。そこから金融系のお客さまを担当するソリューション営業を2年ほど続け、IT業界で働いていける手応えを感じるようになったころ、ちょうどNTT Comの上司からNTTコムエンジニアリング(以下、コムエンジ)を紹介され、正社員として入社することになります。
現在はNTT Comのクラウドやデータセンター、ネットワークといった商材の販売支援を行っています。もともとコムエンジの強みはNTT Comのバリューチェーンとして一部業務を担うことです。いわば現場に人を派遣し、人月計算でお金をいただくビジネスモデルです。“待ち”のスタンスになるため、依頼が多ければ忙しくなり、少なければ手が空くということになります。この“待ち”を“攻め”に切り替え、自分たちが働いた分だけ稼げる新たなビジネスモデルを作りたいという思いが募っていきました。
ちょうどITのニーズがオンプレミスからクラウドへシフトし、従来から実施するサービスプロセスの継続的に品質向上に加え、クラウドニーズに沿った新ビジネスの創出もコムエンジの重要なミッションになっていました。そんな矢先、NTT Comから新たなクラウド接続サービスの支援依頼があったため、思い切って出来高払いのビジネスモデルを提案したところ採用されたのです。採用された「有償サポート」は、各種クラウドサービスをお客さまの代わりに簡易設計・構築代行する導入支援サービスです。これに販売支援もセットで受託することで、「自分たちが働いた分だけ稼げる新たなビジネスモデル」を実現することができました。
出来高払いになったことで、仕事に責任感が生まれ、社員のモチベーションは大きく向上しました。お客さまのクラウド構築のお悩み事を解決する一方、社員にも喜ばれる仕組みが実現できたことは、不動産会社のひとり情シスから始まり、挑戦を続けてきた経験が生きた成果だと感じています。
生涯、笑顔を作るチャレンジを続ける
ひとり情シスからIT業界に転身し、積み上げてきたキャリアで身についたのは「できない理由を考えるより、できるための理由を考える」という思考プロセスです。簡単に諦めず、できる理由を考え続けた結果、案件が途中でダメになってもいい。私の経験上、考え抜いた苦労から生じた社内外との縁が別の案件につながることが多いのです。苦しいときには、「終わらない仕事は1つもない、いつか時間が解決してくれる」と部下に話すようにしています。上司がチャレンジャーなので、部下は迷惑に感じているかもしれません(笑)。それでも高いモチベーションで、私に付いてきれくれているので、とてもありがたいですね。
コムエンジはエンジニアリングを本業としているため、真面目にコツコツやる社員が多い印象です。決められたことをきちんと行う正確性が求められるため、新しいことに挑戦しづらい事情もあります。しかし実行はできずとも、多くの社員が新しいことを頭の中では考えているのです。それを誘発し、行動に移し、チャレンジする前例を作ることが私の役割です。これまでトライエラーを重ねていろいろな挑戦を続けてきましたが、それがシステム構築であっても、ビジネスモデルの創出であっても考え方は大きく変わりません。いろいろ工夫することで、課題を解決し、喜ばれたり、感謝されたりしたいという気持ちが根底にあるからです。
コロナ禍もあり未来が見えづらい現在、NTT Comのバリューチェーンであり続けることだけでは、コムエンジの継続的な事業成長は望めません。舞台裏を支える黒子ではなく、世間から「これはコムエンジの仕事だね」と認知されるような、広く顔を売ることも今後のコムエンジには求められると感じでいます。すでに定年まで10年を切っていますが、どこまで成し得るかが、いまの私が取り組んでいるチャレンジです。
もちろん、定年後も別の仕事を続けていくつもりです。隠居して趣味の釣りに没頭する性分でもありません(笑)。新たなビジネスにチャレンジする計画ですので、その際にはぜひコムエンジとの協業で社会課題の解決に貢献し、世の中を幸せにするインパクトを起こせればいいなと考えています。
OFF TIME
釣りがルーティンワークになっています。最近はまっているのは「紀州釣り」。これは米ぬかと砂でくるんだエビの団子を餌にクロダイを狙うというもので、釣りの序盤と中盤・終盤で団子の硬さを変えたりする戦略が求められます。仕事と同じで、工夫してはトライアンドエラーする難しさが魅力です。
PROFILE
小山 幸男
2005年にNTTコムエンジニアリングに入社。不動産業界からIT業界に転身したチャレンジ精神を生かし、現在は新規ビジネスの開拓に注力し、成果を出している。座右の銘は「できない理由を考えるより、できるための理由を考える」。失敗を恐れず突き進むことを是としている。