ドコモビジネス|NTTドコモビジネスエンジニアリング

横畠 誠也

ENGINEER

何度折れそうになっても、前に進むことを諦めない
「こころウォッチ」開発者が語る、
不屈のエンジニアリング

横畠 誠也

「説明書を読み尽くす」少年がAI研究を経て通信の世界へ

「説明書を読み尽くす」少年がAI研究を経て通信の世界へ

生まれは大阪府羽曳野市です。山奥というほどではありませんが、郊外の自然の中を駆け回るような子供時代を過ごしました。当時から家電の説明書を渡されると、つい最後まで読んでしまう性分です。いまでも知らないものに出会うと、まず仕組みを知りたくなってしまいます。中学に上がる頃、親戚のお姉さんが触れていたパソコンに興味を持ち、両親に頼んで1台買ってもらいました。とはいえ、最初は右も左も分からず無料のインターネットサービスでネットサーフィンをするだけ。プログラミングという言葉は知っていても、手の出し方が分からない時期が続きました。実際に手を動かし始めたのは高校に入ってからです。普通科の進学校で、まわりは医者や教師を目指す人がほとんど。あまり情報系を志す同級生はいませんでしたが、私は最初から「ITの道に進みたい」という気持ちが強くありました。

「人工知能の可能性」に惹かれ大学に進学したのですが、当時はAI研究そのものが“冬の時代”でした。まだニューラルネットワークという言葉も研究者だけのもの。いまのような生成AIなど存在しない時代に、「AIで食べていくのは難しいだろう」と感じた私は、積み上げが効く通信の世界を選びます。学部ではP2Pを使った配信効率化の研究に取り組み、大学院では東日本大震災の影響もあって通信系の知見を生かした電力制御の分散システム研究へ。いまで言うIoTに近い領域に当時から面白さを感じていました。

就職後はネットワークエンジニアとして、ルーターやスイッチに向き合う日々を送りますが、現場をコントロールする立場では自分でプログラムを組む余地がないことに、ジレンマを感じていました。そこから運用・構築のツールを自分で作る方向へとキャリアを切り替え、通信系の合弁会社への出向を経て、NTTドコモビジネスのクラウドサービス「Enterprise Cloud」の運用部門へ。サーバーの中身に触れられる面白さに惹かれ、知的好奇心を満たしながらキャリアを重ねていきました。そして、ちょうどコロナ禍に入った頃、ネットワーク関連の保守運用チームへの異動をきっかけに、私の人生を大きく動かす出来事がはじまるのです。

2週間で組んだ試作品が、幾度もの難局を越え特許と受賞へ

コロナ禍でリモートワークが中心になった2020年以降、まわりで体調を崩すメンバーが急増しました。「これは会社や部署だけの問題ではなく、もっと大きな社会課題なのではないか」——そう感じたことが、後に「こころウォッチ」と呼ばれるセルフケアツール開発の出発点になりました。

ちょうど社内で新しいビジネスを生み出す活動「Ceng Lab」が立ち上がっていた時期で、ヘルスケアをテーマにした取り組みもその1つでした。上司に相談すると「いいんじゃない」と言ってもらえたものの、「でもセキュリティは大丈夫か」という懸念も出ました。従業員の情報を扱う以上、当然の指摘です。そこで私が選んだのは、データをいっさい外に出さない設計でした。パソコンのWebカメラで顔を映すと、肌の色がごくわずかに変化します。その微細な揺らぎをとらえて心拍数を推定し、さらに心拍の間隔のばらつきからストレスの度合いを算出する——すべてブラウザ上で完結し、測定結果はその端末のキャッシュにのみ残ります。外部へのネットワーク送信はいっさいないためセキュリティも担保されるのです。この設計思想に基づき、公開されているオープンソースをうまく組み合わせることで、このプロトタイプを2〜3週間でつくり上げました。

最初はチーム内の5、6人に試験的に運用してもらい、フィードバックを得て開発を進めました。「データを取られるのでは」「医療法に触れるのでは」といった不安の声に、何度も説明を重ねて理解を得ながら進めました。しかし、管理者には好評でも実際に使い続ける従業員はなかなか増えず、一度は心が折れかけました。それでも諦めきれない上司たちの後押しもあり、2022年、約50人という規模の新入社員研修で導入する機会が巡ってきます。反応は予想以上に良く、自分よりも上の役職の方々が前向きだったことには驚きました。

ただ、ビジネス化を考えた場合、「本当にブラウザの測定だけで大丈夫なのか」という自問が頭をよぎりました。そこで専用の計測デバイスを借りて約3か月間検証したところ、測定結果に相関関係が現れないという事態に陥りました。2023年末、また大きな壁が立ちふさがったのです。それでも諦めきれず特許の出願だけは進めていて、これが認められたことがひと筋の光になりました。そして2025年、HR部門から「日本HRチャレンジ大賞」への応募という話が突然舞い込みます。気づけば2022年の新入社員研修の頃とは、HR部門側の体制も変わっていました。精度はまだ発展途上だと正直に説明した上で応募し、結果は奨励賞を受賞。ここで社内の注目度はいっきに高まりました。

技術でチームを牽引し、「気づき」を社会へ広げていく

技術でチームを牽引し、「気づき」を社会へ広げていく

現在の本業は、特権ID管理機能を持つ踏み台サーバー製品「SMART Gateway」の技術支援・代理店業務です。お客さまからの不具合対応やメーカーへのエスカレーションを担いながら、これからは構築案件にも本格的に踏み出していくところです。

こころウォッチに関しては、ビジネスとして成立させることだけが目的ではありません。もともとの動機は「自分では気づきにくい不調に、本人が気づくきっかけをつくりたい」という思いです。いまはまだ社内の一部の従業員にとどまっていますが、いずれは社外のさまざまな企業で使っていただき、社会貢献と呼べるところまでソリューションの輪を広げていきたいと考えています。最近では実際に労働組合を通じて、心身の不調に悩む方に使っていただくケースも出てきました。諦めない心で幾度もの試練を乗り越えたのです。

社内のCeng Labでは、こころウォッチ以外にも、ロボットが稼働するオフィスの騒音をデシベル値だけで検知してアラートを出す仕組みなど、社内の環境改善につながる取り組みにも携わっています。

これから目指したいのはマネジメントというよりも、技術でチームを牽引していく立ち位置です。開発者としての視点と、現場で困っている人の視点を橋渡しできることが、自分自身の大きな強みだと思っています。座右の銘は「現場で起きていることを丁寧に捉え、データだけに依存せずに考えること」。データだけを見ていても本当のことは分からない、現場を見なければ分からない——その姿勢を大切にしながら、メンタルヘルスや離職といった社会課題に、これからも挑み続けていきたいと思っています。

OFF TIME

最近はジムに通い始めました。机に向かう時間が長いことが気になったのがきっかけです。器具はバイクが中心。自炊も始めて、カレーや野菜を使った簡単な料理をつくっています。読書はタブレット派で、ビジネス書とミステリー小説をよく読みます。最近は少し不気味な謎解き系の作品がお気に入りです。

横畠 誠也

PROFILE

横畠 誠也

横畠誠也(よこはた まさや)
大学および大学院でP2Pや分散システムを研究。ネットワークエンジニアとしてキャリアをスタートし、クラウドサービス「Enterprise Cloud」の運用などを経て、現在はSMART Gatewayの技術支援を担当。コロナ禍に開発したセルフケアツール「こころウォッチ」で特許を取得し、2025年の日本HRチャレンジ大賞で奨励賞を受賞。座右の銘は「現場で起きていることを丁寧に捉え、データだけに依存せずに考える」。

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