実家の食堂経営からスーツを着る仕事に憧れITの世界へ
実家は食堂を営んでいて、ある事情から18歳のころ、大学を中退して店を継ぐことになりました。食堂といっても家族で切り盛りしている小さな定食屋です。常連さんを相手に、店主として厨房に立ちました。私が生まれる前から通っている常連さんもいて、店を継いだ私を温かく応援してくれました。そのことは、いまでも感謝しています。
食堂は7年ほど続けました。妹が結婚したこともあり、「お店は私に任せて、自分の好きな仕事をしなさい」という母に背中を押され、新たな仕事に就く決意をします。お店ではずっと白衣でしたので、スーツを着て仕事がしてみたいという理由から、派遣会社に登録。たまたま派遣された先が、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)でした。
当時はPCのショートカットキーも知らないほどでしたが、派遣社員として1年間働き、キャリアもできたので、次のステップとしてエンジニアリング業務の会社に正社員として入社。ここでも取引先はNTT Comで、ご縁があったのでしょうね。とはいえ知識も技術も足らず、仕事の依頼先やお客さまから「そんなこともわからないの」と叱られる日々が続きました。「勉強不足で申し訳ないです」と頭を下げながらも、各所にコネクションをつくっていきます。そのような経験がつながって、線になり面になって蓄積されていき、多くの疑問は雲が晴れるように解消されていきました。
仕事では、少なからず食堂時代に培ったコミュニケーション能力が生かされたと思います。初対面の硬い雰囲気やこちらの要望を通したいとき、相手の懐に入るテクニックです。会話の雰囲気や相手の所作を観察し、ちょっとした崩しをきっかけにこちらの懐を先に開いて本音ベースの話に持っていき、距離を詰めるのです。
そして金融系の業務を手掛けるチームのリーダーになり、居心地も良かったのですが、8年ほど働いたころ結婚が決まり、さらなるキャリアアップを望む妻の意向もあり、転職することになります。
立て続けに大規模プロジェクトを完遂する
実は次の仕事はITではなく別の業界を考えていたのですが、会社に辞意を伝えたところ「省庁関連のネットワーク更改プロジェクトが動き出すので、支援メンバーになってほしい」とオファーを受けました。元来、私は頼りにされると断れない性分です。「ならばお手伝いしましょう」という流れになり、NTTコムエンジニアリング(以下、コムエンジ)に入社。結局、ITの仕事を続けることになります。
このネットワーク更改プロジェクトでは、SIの方と連携しつつ回線申し込みに必要な情報管理、進捗管理、申込処理を担当しました。周りが強く推してくれたこともあり、この仕事でNTT Comの「ベストマーケティング賞」を受賞しました。きっちり納期通りプロジェクトを完遂し評価されたので、非常にうれしかったですね。
次にアサインされたのが、全国に2万拠点以上を展開するお客さまの光回線ネットワーク更改をベースとした大規模プロジェクトです。「PROFESSIONALS」で山本哲朗さんがお話しされている、業務内容は質量ともに「超ハード」という前評判の案件でした。毎日、夜中まで多くのメンバーが働いており、「家庭があるからちゃんと休め」と声をかけてくれる上司が、そもそも休まない(笑)。当時娘が生まれたばかりで、妻には苦労をかけたと思いますが、すべてを飲み込んで支えてくれました。
どこかで一度立て直さないと、このプロジェクトは絶対に終わらない。ずれた積み木を積み上げても崩れてしまうと思っていたのですが、何とスケジュールを前倒しで完遂させたのです。この時、コムエンジの底力は凄い!と感じた一方、自分が描いた限界のラインは、まだまだ越えられると気づきました。これだけ大変な毎日だったのに、終わってみるとなぜかもの悲しくなる。火消しに奔走する日々が懐かしく、いま一度身を投じたい欲求がわいてくるのです。
当時一緒に働いたメンバーは正に戦友で、いまでもつながりがあります。そしてこのプロジェクトで、2度目の「ベストマーケティング賞」を受賞できました。
会社と社員の未来を広げるDXの思想をつくる
2019年2月より、現部署でデリバリー担当をしています。これまでは受注した案件の申込から開通までの調整を行うプロジェクトマネージャーだったのですが、現在はそのプロセスを構築するサービス運用管理に携わるサービスマネージャーとして働いています。運用管理と並行してプロセスの洗練化、いわゆる効率化・自動化を推進することで運用にかかる稼働やコストを抑える取り組みも行っています。これまでデリバリーの狭い範囲でしたが、現在はいろいろなプレイヤーと連携して業務を進めます。必要な部署を巻き込んで、スケジュール通りに進んで、思い描いたプロセスをうまく稼働させた瞬間は最高です。業務領域が拡大し、これまで見えなかったものが、俯瞰的に上流から見えるようになったことがうれしいですね。
「未来ワーキング」のメンバーに選出された当初は、「社歴5年にも満たない私になぜ声がかかったんだろう」と疑問を抱きました。思い当たるのは、大規模案件の実績でしょうか。最初の顔合わせで感じたことはメンバー全員が「声を発するタイプ」であること。みんなが積極的に意見を述べて、その熱量の高さにびっくりしました。こちらも負けられないという気持ちで、率先して声を出しましたね。
サブワーキングは「DXを創出する」に所属し、初期はリーダーとして俯瞰的にコムエンジを見てDXの施策の土台となる思想づくりを行いました。現在の業務を効率化するだけではなく、新しい価値やサービスを生み出すことにDXの意味があります。新しい業務や稼ぎどころをつくっていく思想こそが、未来ワーキングが目指すDXです。さらに全社的なDXを推し進めるためには組織間での連携が必須となるため、組織間の壁を無くし、DXを加速させる風通しのいい環境づくりにも取り組んでいく計画です。
個人的には、せっかくエンジニアリングの会社にいるので、いずれは技術系の領域に踏み出したいと思っています。その一方で、もう一度タイトなスケジュールの大規模プロジェクトに携わりたいという思いもあります。人を動かすことを経験したいまなら、これまでよりもっとうまくやり切る自信もあります。かつてのメンバーに声がかかり、再度召集されるような映画のような展開に期待しています。修羅場を超えることで、人は大きく成長します。人は極限まで追い詰められると、振り返らなくなり、先のことしか見なくなります。何から手をつけていいかわからなくなったときは、たじろがず、とどまらず、指一本でもいいから動かす。「動いていれば未来は拓ける」というのが私の座右の銘です。
OFF TIME
最近は娘と過ごすことが多くなりましたが、かつてはビリヤードに夢中になりプロを目指していた時期もありました。何度か大会にも参加して優勝したこともあります。いつかまた、時間に余裕が出来たら家で埃をかぶったキューケースを引っ張り出して腕を磨きたいですね。
PROFILE
笠井 靖之
2016年にNTTコムエンジニアリングに入社。2つの大規模プロジェクトをやり遂げた後、サービスネットワーク部門のデリバリー担当に。現在はプロセスの運用整理に加え、効率化、自動化の推進に取り組んでいる。逆境に置かれるほど力を発揮する、不撓不屈の精神力を持っている。